◇ジャーファルさんの場合
(会社にて)


「ジャーファルさん、トリックオアトリート!」
「おや、」

ふふふ、と微笑ましげにこちらを見られ、アリババはハシャぎ過ぎただろうかと顔を赤くした。ジャーファルの終業時間は予め彼の上司であるシンドバッドにリサーチ済みだったアリババは、仕事を終えて帰る頃合いを見計らってジャーファルの勤める会社まで突撃した。社長であるシンドバッドの秘書を務めるジャーファルには一つ執務室が与えられており、ジャーファルには内緒でそこでこっそり待機をしていたのだ。鍵はシンドバッドに開けて貰い、楽しい夜にしておいでと肩を叩かれた。帰る前に必ずこの執務室に荷物を取りに戻るジャーファルが扉を開けた瞬間、ハロウィンのお約束であるあの言葉を大きく叫んだのだった。

「可愛らしいですね、吸血鬼ですか?」
「はい!…でもどっちかっていうと吸血鬼ってカッコ良くないです、か?」

よしよしといつもの如く頭を撫でられ困惑する。自分としてはカッコ良いと思ってこの衣装にしたのだ。ちゃんと鋭い牙まで着けたのに。

「すみません、私にはアリババくんが何をしていても可愛く見えてしまって」

ナチュラルにそんな口説き文句を告げられ、ありがとうございます?とどこかズレた答えをアリババは返した。ジャーファルはそういえばトリックオアトリートでしたね、とソッとアリババの手を引いた。

「アリババくんの為にケーキとお菓子を取り寄せてあるんです。ですから良ければ私の家に招かれてはくれませんか?」

ふんわりとした笑みに誘われるように、無意識の内にアリババは首を縦に振っていた。それでは行きましょうかと優しく促すジャーファルに、ああ敵わないなぁとアリババはぼんやり思った。



 ハニー甘くて楽しい夜をどうぞ
 (ああ、ごちそうさま!)










◇シンドバッドさんの場合
(自室にて)


「トリックオアトリートですよ!シンドバッドさん!」

弾んだ声音と共に抱きつくと、シンドバッドも楽しそうに抱き締め返してくれた。頭からすっぽりと白いシーツを被ったアリババをそのままふわりと抱き上げ、ソファへと移動したシンドバッドは自身の膝へと密着するようアリババを乗せた。

「その格好は…オバケかな?」
「はい、一応」

流石に穴を開けるのは勿体無かったので…と苦笑するアリババに穏やかに微笑み掛け、シンドバッドはアリババの腰に腕を回した。

「さて、今俺はアリババくんに渡せる菓子は無い訳だが」
「え?や、あの…」

先程から目の端に映るのであろう机上のチョコレートをチラチラ見やるアリババに、わざとうん?と首を傾げると困り果てたように視線をあっちこっちにやり始めた。挙動不審なアリババの顎に指を掛けて目線を合わせ、親指で軽く唇をなぞる。

「イタズラはしてくれないのかな?」

熱っぽく囁いてやると火が出そうなくらい勢い良く真っ赤になり、ずるいですシンドバッドさんと胸元に縋りついてきた。可愛くてたまらない恋人に、自分はさてどんなイタズラをしようかとシンドバッドは愉快そうに口角を上げた。



 ダーリンとろける愛が欲しいわ
 (灼け付くような濃厚な)










◇白龍くんの場合
(帰り道にて)


「白龍ー!」
「アリババ殿ちょうどよい所に。手を出して下さい」

学校帰りにタイミング良く前を白龍が歩いており、手を振りながら走り寄ると白龍に先のような言葉を言われた。言われるがままに手を差し出すと、バラバラとカラフルな飴玉を渡された。苺にオレンジ、ブドウにレモン…色んな種類を手の上いっぱいに乗せられてアリババはビックリする。疑問を口にする前に、照れくさそうな声が白龍から発せられた。

「今日はハロウィンなのだと姉上に伺ったので…その、アリババ殿は甘味が好きだと以前アラジン殿にお聞きし…」

アリババ殿には常日頃からお世話になりうんたらかんたらと真面目過ぎる口上を呆けたまま聞いていたアリババは、徐々に体の奥から湧き上がってくるものにじわじわと頬を染めた。

「…ありがとな、白龍」

すげえ嬉しい。大事に食べるから。
きゅっと唇を結んで言葉を紡ぎ、高揚する心に任せて満面の笑みを浮かべた。そんなアリババの笑顔にしばし見惚れていた白龍は、まさかここまで喜んで貰えるなんて思っていなかった。自分だけに向けられる日溜まりのような笑顔。ああ自分は彼のこんな顔が見たかったのだろう…ストンと胸に落ちた感情にまた、白龍自身もアリババに笑い返した。



 loveユー跳ねる色彩は私の心
 (想いをあなたへと溶かして)










◇ジュダルちゃんの場合
(お家にて)


「トリックオアトリートっつー事で何か寄越せ」
「お前なぁ……」

いきなり家にやってきたかと思えば開口一番そんなことを宣った相手にアリババは深い溜め息を吐いた。

「早く出せよ45点」
「誰が45点だ失礼なやつだな!」

45点でも十分だろとケラケラ笑うジュダルに回れ右して帰れと言いたいが、今までの経験上何か渡さないといつまで経っても居座り続けるだろう相手にもう一度溜め息を吐いて、アリババはリビングのテーブルに置いておいた袋をジュダルに突き付ける。

「ほら、これ持って帰れ」
「何だ?これ」

ラッピングされた袋の中にはクッキーが入っている。それを受け取ったジュダルがアリババに目を向けると、ふふんと得意気にアリババが腕を組んだ。

「お前が来ると思って用意してたんだよ」

お前の考えなんてお見通しだとばかりに笑うアリババに、ジュダルはふうん?と意地悪く顔を歪めた。

「お前、そんなに俺のことばっか考えてんのかよ」

ニヤリと口の端を上げつつ目を細めれば、途端に固まってしまったアリババ。今の内にと反論が来る前にアリババに近付いて軽く唇を掠め取り、これマズかったらペナルティーなとジュダルは身を翻した。



 sweetsサクリと一口
 (ほどける恋心は誰にも内緒)









とりっくおあとりーと...?